
私がお嫁に行っても、裕太は私の大切な弟です
大学受験まっただ中の冬休み。
シャーペンの芯が無くなった俺は、春に嫁に行ったねーちゃんの部屋の机を漁っていた。
ねーちゃんのシャーペンの芯はBだった。
「そういえば、旦那も濃い顔してたな」
とか思いながら、シャーペンの芯とメモ代わりに使えそうなレポート用紙を持ち出して、俺はまた勉強を始めた。
あれは夜中の2時頃だっただろうか、英語のリスニングの為に予備校で売りつけられたぼったくりCDをデッキにセットし、ねーちゃんの部屋から持ち出したレポート用紙を開く。
裕太(俺)へ
何だか気恥ずかしくて、あんたには何も言えずにお嫁に行くので、いつかあんたが見付ければいいかと思って書いておきます。
小さい頃、泣き虫でお姉ちゃんの後ばかりついて来てた裕太。
学校の図工の時間に作った粘土の写真立てを、私にくれた事覚えてますか?
ホントに嬉しくて大切にしようと思っていたのに、彼氏にふられた時、中の写真と一緒に燃やしてしまってごめんなさい。
思春期に入って、あんまり家族と話もしなくなった裕太に対し、『大人になったんだな』とうれしくもあり、寂しくもありました。
裕太は家ではツッパっているけれど、私は裕太が優しい子だと知っています。
もう少し大人になったら、お姉ちゃんの気持ちもわかるようになるかな。
私がお嫁に行っても、裕太は私の大切な弟です。
辛い事、悲しい事があったら何でも相談してね。
お金の事以外なら、きっと力になれると思います。
それじゃ、体に気を付けて。父さん母さんをよろしくね。
追伸:お前、何勝手にひとの机漁ってるの。
ねーちゃん…。
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