
こんな俺ですけど、現在進行形で愛してるよ
俺だけしか、泣けないかもしれませんが。
この間、仕事から帰ると妻が1人掛けの椅子に腰かけ眠っていました。
そんなはずは無いんだと分かっていても、声を掛けられずにはいられませんでした。
「ただいま。」
すると妻は、ゆっくり顔をあげて
「おかえり。」
と返してきました。
俺は妻に近づいて、頭をゆっくり撫でました。
ちゃんと触ったという感触がありました。
「なんで居んの?」
妻は入院中で、家に居るはずがないんです。
やっとのことで口から出た言葉は、そんなものでした。
すると妻は、にへっと笑って言いました。
「抜け出したんよ★凄かろ?」
アホかと思いました。凄いとかほんと・・・。
妻は昔からそういうところがありました。
末期の膵臓癌で、入退院を繰り返してるくせに活発っていう。
付き合い始めた頃は俺が高1、妻が中2でした。
そん時も病室3階だったくせに木をつたって抜け出したり。
最近忙しくて、週1のペースでしか見舞いに行かなくなっていました。
そりゃあ、寂しかったのかなと思いました。
しばらく二人とも無言でしたが、暫くして俺は言いました。
「病院戻ろう?」
(いや、妻を目にした瞬間そういうべきでしたけど・・・。)
妻は拗ねたように
「いやだ。」
妻が病気ではなかったら、こんな我儘うざいと思うだけだったと思います。
俺は素直に分かったと言いました。
俺たちは暫くくだらない話を繰り返しました。
凄く楽しかったです。
妻が病院を抜け出してきた理由も全く聞かずに。
あほだったと思います。
妻はきっと、自分の死期を悟っていました。
だから帰ってきたんだと思います。
俺は一週間ぶりにみた妻が愛おしすぎて。
細くなった腕も、少しこけている頬も、病室で見るたびに苦しかったのに。
赤みがかった茶髪も、(地毛です)俺がイチコロだった、周りをあったかく包みこむような笑顔も、昔と変わってないんだな、と思いました。
俺はその後、妻を寝かし付けると病院に連絡を入れ、明日には病室に戻すので今晩は家におらせてくださいと頼みました。
担当医は俺に激怒しましたが、無理を通してもらえました。
次の日の朝、起きると妻はまだ寝ていました。
おかしいなと疑うこともなく、10時まで寝かしておきました。
が、さすがに起こそうとおもって妻の体を軽くゆすぶりました。
でも妻は起きませんでした。
この日を俺は一生後悔するのかな。ずっと引きずり続けていくのかな。
妻は、何回呼んでも、こしょばしても起きませんでした。
何度も何度も妻の名前を呼びました。
何が起こったのかも、全部わかってたけど、認めたくなかった。
かなしすぎて。うけいれたくなくて。
起きてほしい。話せなくていい。
笑っていなくていい。
冷えきった妻の手を握り締めてこれまでにないくらい泣き叫びました。
分かっていました。けど今じゃなかった。
まだ時間はあるものだと・・・。
全部後になって気付くんです。
人間って愚かですよね。
覚悟して生きていかないと。
大切なものが増えるたび、失ったとき、倍辛くなるんです。
でも、いつか必ず来る日に怯えてビクビク過ごすより、今ある時間を満喫したほうが幸せだっていうこと。
妻を亡くして気づきました。
ありがとう かな。
愛してる かな。
ごめんね かな。
言いたかった言葉は、失くさないうちに言った方が良い。
気付かせてくれてありがとう。
こんな俺ですけど、現在進行形で愛してるよ。
馬鹿な夫でごめんね。
結局言葉で言えなかったな。
ごめんな。ありがとうございました。
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