10年以上前に私が渡した携帯

母親のこと
夫の仕事の都合で、東京に引っ越してからは、あまり実家に帰らなくなっていました。

ある時、数年ぶりに実家に戻ると、

「連絡をよこせ」

「孫の顔が見たい」

と母がうるさく言うので、携帯電話をプレゼントして、写真付きのメールを送ることにしました。

ところが、機械オンチの母はメールの返信ができないようでした。

反応がないせいか、私の送る頻度もだんだんと減っていきました。

そんなある日、母の急死の知らせが入りました。

実家に戻ると、母の枕元には10年以上前に私が渡した携帯が置いてありました。

塗装が剥げてボロボロになった携帯を手に取ると、

「お前から届いたメールが消えるのを嫌って、替えなかったんだ。暇さえあるとメールを読み返していた」

と父。

壁紙には、娘が11才の誕生日に写した写真が。

娘はその時16才です。

母の中で、娘は11才で止まったままだったのです。

忙しさを言い訳にして、母の気持ちを考えようともしなかった自分が情けなくなりました。

もっと実家に帰っていれば…。

こんなに早く会えなくなるとは思わなかったなんて、言い訳にもなりません。

お母さん、本当にごめんなさい。

それからは、毎年家族写真を撮り、父に写真付きの年賀状を送っています。

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