
きっと大丈夫ですよね?
60過ぎて、癌と言われても治療はしません。
5年前、1人娘も結婚しましたし、思い残す事ももうないのです。
でも、オリンピックと孫の顔は見てみたかったですね。
30の時に夫を舌癌で亡くしました。
それからというもの、娘を1人で育ててきました。
癌だと電話口で娘に伝えると、一通の手紙が送られてきました。
お母さんへ
ほんとに治療しないの?
私としては、してほしい。
生きてほしい。
お父さんが死んでから、お母さんに無理させてきたのは分かってる。
お父さんが死んだとき、仏壇の前に一人で佇んでるお母さんのちっさい背中を見たとき、 この人も不安でたまらないんだって私にも分かったもん。
不安でたまらなくて、押しつぶされそうなくせにいっつも笑ってたよね。
もう無理はさせたくないんだけど、まだ一緒に居たいよ。
小柄なくせに、ピンって伸びた背筋はお母さんの性格語ってた。
人ひとり分に、何十人もの悲しみとか背負えるわけないじゃん。
でもお母さん意外と頑固だから、私が言っても聞かないんでしょう。
だから、感謝を伝えるために書いた手紙のはずなのに、いつの間にか 「まだ生きて。」なんてまた、重みになるような言葉かけてる。
お母さんが欲しいのは、「頑張ったね。」とか「お疲れ。」 っていうお父さんからの言葉かもしれない。
でも私は、まだ未熟で子供っぽいから分からない。
なんで自ら死に向かって行こうとするの?
まだお母さんの笑顔が見たいよ。
〇〇より
私は27年間、娘の前で泣きませんでした。
女らしいとか捨てて、ただ強く生きようとしていました。
今は確かに、夫からの褒め言葉を聞きたいですね。
でも、一つ言えるのは、自ら死に向かって行っているのではなく、 「死」を受け入れようとお母さんなりに頑張っているんです。
私も娘の笑顔はまだ見たいですが、過ごした時間は夫より娘のほうが 18年も多いのです。
そろそろ夫の声も忘れてきましたし、お迎えが欲しいところです。
甘えん坊を置いて行くのは、気が引けますが、あの子には支えてくれる夫が居るのです。
きっと大丈夫ですよね?
泣いても笑っても、実はもう少ししか私には時間というものがありません。
私の大好きな人と、ついでに大嫌いな人にも感謝です。
私という人間を作り上げた全ての人に。
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