腕を失おうと目の前の命をすくい上げられるよう、いつも覚悟を改める

知人のこと
阪神淡路大震災。あの大揺れはまさに未知の衝撃だった。

当日、不精でコタツ入ったまま寝てたのが幸いした。

頭側にあった本棚がコタツにのしかかる様に倒れ、そこに更に別の棚や家具が重なり、

本を頭にしこたまぶつけたものの、屋根等重量物の直撃は避けられ、結果的に俺を守る盾になってくれた。

どれほど時間が過ぎたか、いつの間にか揺れは収まっていたが、身動きは当然とれなかった。

最初は色々あがくが、ミシミシと気味の悪い音を立てるだけで、むしろ均衡がやぶれて崩落しかねない状態だった。

それからはとにかく必死に叫んだ。狂いそうだった。

「誰かいるのか!?」

と返事が来た。

俺は、もう必死に助けを求めた。

「おい!ここに人がいる!手伝ってくれんか!?」

と周囲に呼び掛けてくれた。

それから数人の男性が四苦八苦の末、俺を外に引きずり出してくれた。

家全体が / こんな具合に傾いてたんだが、これも幸いに俺はスラッシュの右側に位置しており、周囲のガレキを突っ込んで最低限のつっかえにし、後は力任せに引っこ抜かれた。

外に出て俺は周囲の光景に絶句した。

地獄がそこにあった。

「大丈夫か!?なんともないか!?」

の声に我に返り、助けてくれた数人の男性に、俺は土下座し、泣きじゃくりながら感謝した。

「気にするな!困った時は、お互い様だろ!」

と肩を叩いてくれた男性の手は、手に限らず全身が傷だらけの血まみれだった。

「何でそんなになってまで…」

と泣きながらようやく絞りだしたら、

「腕の一本や二本で人の命が助かるなら、安いもんだろう!」

あの大地震の物理的な破壊力。

住み慣れた街の変わり果てた姿。

絶体絶命の窮地。

いずれもこれ以上ない衝撃だった。

だが、その地獄の中で尚、自らを省みずに他人を助けようとする人々がいた事。

こんなに愕然とした事はなかった。

年々マシになってきてはいるが、毎年あの日が近付いてくると、早朝にふと目が覚める事がある。

あの悪夢を思い出しながらも、腕を失おうと目の前の命をすくい上げられるよう、いつも覚悟を改める。

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