私の大好きなお弁当

父親のこと
私の家は、俗に言う父子家庭でした。

お父さんはとにかく家事が出来ませんでした。

それはもう、笑っちゃうくらい。

お弁当に入れる卵焼きさえ、いつも黒焦げでした。

私はそんはお弁当を友達に見られるのが嫌でいつも隠れて捨てていました。

包丁なんてまともに使えないくせに、無理してウインナーをタコの形に切るんです。

りんごがあればうさぎの形に。

ニンジンなんかは、とっても歪なハートの形に。

いつもお父さんは朝早く起きて、私のためにお弁当を作るんです。

私が誕生日を迎えた日にも相変わらず、お父さんはお弁当を渡してきました。

私はいらないと言ったのですが、それでも無理矢理持たされました。

しかし、その日も結局、友達に見られたくないという恥ずかしさから、私は登校中にそれを捨てました。

そして何事もなく学校が終わり、家に帰宅すると、

「どうだった?今日の弁当」

お父さんがどこか浮き足だった様子で、私にそんなことを聞いてくるのです。

「ハッピーバースデーって文字の形、海苔で作るの大変だった」

お父さんはにこにこと、嬉しそうに言いました。

それを聞いて、私は泣きました。

私のために毎日欠かさず、一生懸命作ってくれたお弁当。

それから、私は毎日お父さんのお弁当が楽しみになりました。

ボロボロのタコウインナー。

傷だらけのりんごのうさぎ。

欠けたハート型のにんじん。

どれもこれも、私の大好物になりました。

友達に思い切り自慢してやりましたよ。

私の大好きなお弁当だ!って。

それから時間は経って。

今では、娘の顔さえ忘れるほど年取ったお父さんに、今日も私はお弁当を届けています。

いつも、全部食べてくれてありがとう。

お父さんのお弁当、また食べたいよ。

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