母の前では泣くな。だから今泣け。

母の前では泣くな。だから今泣け。

俺が小5の頃、母親が肺癌になった。

人間ドックに行った時に発覚した。

当時、中3の兄と高2の姉には肺癌だと父は伝えていた。

俺には、体調が悪いから少し入院すると父は伝えた。

俺は、母親がすぐ戻ってくると信じていた。

だが、癌の進行が酷く日に日に弱っていく母親が、体調が悪いだけではないと気づいた。

兄は受験もあったので塾に通い勉強に集中してもらった。

姉と俺と父の3人で家事を交代でおこなっていた。

母親が入院してしばらく経ち、姉がお見舞いに、兄が塾に行ってる間に俺と父で晩御飯を作ることになった。

俺はもちろん、父も料理なんてできない。

『とりあえずチャーハンでも作るか』

ということで父と不器用なりにチャーハンを作った。

姉から「電車が遅れてるから、先に晩御飯食べてろ」と電話が来たので先に食べることにした。

父と二人、手を合わせて、いただきますをした。

すると父が俺に

「母は肺癌で余命わずかなんだ」

と俺に言った。

俺は黙っていた。

父は続けて、

「母の前では泣くな。だから今泣け。」

と俺に言った。

俺は泣いた。

父と一緒に。

いつも強面の父が、初めて俺の前で泣いた。

二人で泣きながらチャーハンを食べた。

その時のチャーハンは苦くてしょっぱかったけど、美味しかった。

それから俺は今年20歳になった。

飲食店の、厨房で働いている。

毎日チャーハン作ってるけど、あの時のチャーハンより美味いもん作れるように頑張っている。

兄は弁護士を目指して勉強している。

姉は友達と起業して、なんとかやっているそうだ。

父はテレビ番組の真似事で、各停バスの旅を休日に「母」と楽しくやっている。

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