愛の思い出があるかぎり、俺は一人じゃないし、淋しくも無い

愛の思い出があるかぎり、俺は一人じゃないし、淋しくも無い

母が若すぎて困る。

私が高校生の時の家族写真を恋人に見せたら、

「妹さん可愛いね」

と言ってきた。

そんなに私は老けてますかorz

父曰く「今の君が大好きだ。」と新婚時代に言ってから、全く変わらないのだそうだ。

そして、その態度も全くその頃のまま。


私と父が将棋を指していると母が「私とも遊んで。」と父に擦り寄ってくる。

父「後でな。」

母「今、今い~ま。」

父「とりあえず将棋でも見てろ。あ、その香車待って。」

しぶしぶ盤面に目を落とす母。

私「母と父は仲いいよね。」

母「大仲良し!」

父「普通だろ。」

母「つれないわ~。昔はあんなに・・・(甘々セリフ)とか言ってくれたのに。」

赤面父「今いいとこだから少し黙ってろ。大祐(私の名前)、その角成り待ってくれ。」

(中略)

ふと深夜に眼が覚め、何気なしにトイレに行くと、通り道にある父母の寝室からクスクス笑い声。

覗いてみると、

母「ちーくん。」

父「えっちゃん・・・。」

母「やっとスリスリできる~。」

父「今日もお疲れ様。」

母「そちらこそお疲れ様。今日は大ちゃんばっかりで私の相手してくれなくてさびしかったよ~だ。」

父「すまん。しかし、大祐の前でこんな風にべたべたするのはいかんだろ?」

母「私はしたい。」

父「しかし、父の威厳が。」

母「したい。」

父「威厳が。」

母「私は!」

父「はい、すいません。努力します。」

母「よろしい・・。チューしようチュー。」

そこで目を離す私。

他人の恋愛、特に親の恋愛はとっても生々しく見えると知った17の夜。


父の態度はその後も私がいる前では変わらなかったけど、相思相愛の夫婦であることは分かっていたので心配は無かった。

今で言うとこの父ツンで母デレだね。

便利な言葉ができたものだ。

そんな普段は素っ気ない父も母の誕生日の時は、母の大好きな苺のショートケーキ。

そして、誕生花一色の花束を贈る。

この日だけは父は絶対に定時に帰る。

それをいつもよりちょっと豪華なディナーで迎える母。

それを存分に楽しんだ後、苺のショートケーキを三人で食べる。

そして、最後に父は母に言う。

「愛してるよ。」

それを聞く母はとても満足そう、反面父は所在無さ気だ。

それは毎年毎年どんな時も欠かさず続けられた。

毎年毎年この日、食卓の中央には花が、そして苺のショートケーキがあった。


それは場所を仏壇に換えてからも続けられている。

母が若すぎて困る。

遺影の中、笑顔の彼女は昔と何も変わらない。

一方皺の増えてきた感のある私の顔を見ると、高校時代兄妹と間違われてた関係が親子にまで開いていそうだ。

私は母がいなくなってから程なくして、結婚した。

その時、一人身の父を思い「同居をしよう」と話したが父の答えはNo。

「一人じゃ淋しいでしょ?」と聞いた私に父は言った。

「いいか、どんなに何があっても変わらないものがある。それは愛の思い出だ。それがあり限り俺は一人じゃないし、淋しくも無い。」

赤面しながら言う父を見て、やはり昔のように天国の母は満足そうに笑っている。

私はそんな気がしてならないのだ。

ふと見た仏壇の、中央にあるガーベラの花束が風になびき、カサッと鳴った。

それはまるで母が「そうなのよ~」と返事をしたようで、不思議と嬉しかった。

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