それも私の人生だと思い生きてみる。生きていればどうにかなると思う。

自分のこと
昨日、母親と喧嘩をした。

原因は付き合っている彼の家庭環境が複雑で、それに対して母親があれこれ言うという、どこにでもあるようなことだった。

しかしだんだんとヒートアップしてきた母は、私の性格や昔いじめをうけていたことなど、触れられたくない部分へと的をむけてきた。

『なんで、母さんにそんなこと言われないといけないの!』と私がいい、 それに『あんたみたいな娘、生むんじゃなかった』と返され、悲しくなってしまった。

『あぁ・・・私は生きてるどころか生まれてくる価値すらなかったんだなぁ』

と思った瞬間 、この先生きていても不安だらけだし、死んでしまおうと思った。

すぐに、弟が心霊スポットで自殺の名所だと話していた岬が浮かんだ。

あそこなら、飛び込んで死ぬことができるだろう。

私は仏壇に手を合わせ大ばあちゃんに 「ごめんなさい、家族をお願いします」とつぶやき、岬に向かった。

しかし岬に向かっている途中、急に怖くなってきた。

そこで衝動的に死ぬ前に、やれることはないか考えてみることにした。

まず一番の不安は【持病】のこと。

私は6年前に視機能が低下していき最悪失明する可能性のある難病だと診断された。

治療法もなくこの先、進行を待つしかない私はどうなってしまうのか。

ネットや本で病気の情報を知ればしるほど、この先の自分の人生が恐ろしくてたまらなくなる。

ips細胞やSTAP細胞など錯綜する情報に、正直疲れ果てていた。

二番目の不安は【お金】のこと。

障害者にも健常者にもなれない私ができる仕事は限られている。

やっとで見つけた仕事は、3か月毎契約更新の事務のパート。

『それも更新のめどがたたない』と言われている。

実家暮らしとはいえ、生活費をいれないわけにはいかず。

加えて奨学金の返済や通院費などで貯金ができる余裕はない。

弟の学生でき婚など予想外の出費が重なり、今月ついに貯金が846円になった

三番目の不安は【結婚】のこと。

彼は病気のことを知りながらも私と付き合ってくれた。

お互い良い年齢だし、結婚を前提にということで交際がスタート。

しかし今年、私の病気のことを知った彼の母親と兄弟に反対され、結婚の話がなくなった。

さらに彼はギャンブルで作った借金があった。

それでも、彼は『ギャンブルは二度としない』と約束し、ギャンブルを断った。

だが安心したのも束の間、今度は私にきちんとした相談もなく彼は住宅ローンを組んだ。

理由は母親のもう一度家を建てたいという希望にこたえるため。

もう一度、というのは建て替えということではなく、返済できずに手放したためだ。

ちなみに彼の父親は定年している上に障害をもっている。

こんな状態で息子に住宅ローンを組ませる彼の親に対し、不信感がつのった。

視機能が残っているうちに早く子供を産み育てたいという私の気持ちと、

彼と結婚できるのか?

また、結婚できたとして私にやっていけるのか?

という不安で、彼と言い合いになることが増えた

【持病】、【お金】、【結婚】この3つの不安を考えればかんがえるほど、自分が価値がない人間だと思った。

考え出すととまらなくて、学生時代にいじめられ、社会にでても周りどころか家族とすら上手くコミュニケーションがとれない私は、やはり死ぬしかない、と思った。


しかし情けないことに、それでもやっぱり死ぬのは怖かった。

そこで3つの不安のうち、1つでもなくなれば生きられるのではないかと考えた

持病や結婚は、今、どうにかなる問題ではない。

ならばお金のことを運にまかせてみよう、そう思った。

ギャンブルをしない私に、パチンコやスロットはハードルが高い。

仕方がないので、宝くじを買うことにした。

宝くじが当たったら、死ぬのをやめよう。

こんな時だからこそ、当たるかもしれない。

わずかな期待を込めて、私は岬へ向かう道から外れ、近くの宝くじ売り場へ向かった

宝くじ売り場のお姉さんは、私がはじめてで買い方を知らないことを告げると、とても親切に教えてくれた。

宝くじには、その場で当たりがわかるものとわからないものがあって、その日は、1等が777万円の人気のある200円スクラッチの発売日だと教えてもらった。

私はそれを1枚買うことにした。

お姉さんはスクラッチをトレイの上にのせて渡しながら、

「当たりますように!」

と手を合わせてくれた。

私は、なんだか少し嬉しくなった。


その場で削るのはなんだか恥ずかしくて、近くのトイレの個室でけずることにした。

富士山が3つあれば1等。

1等じゃなくても、同じ絵柄が3つあれば当たりだとお姉さんは教えてくれた。

コインをカードにあてて1往復、富士山らしき絵柄が見えた。

手の動きが自然と早くなる。

777万円あれば大丈夫、生きていける、そう思った。

結果、羽子板が3つ。

200円の当たりだった

後ろの説明文を読むと、宝くじ売り場で換金できるとのこと。

私は複雑な気持ちでお姉さんのもとへと戻った。

お姉さんは、大きな口をあけて豪快に笑いながら喜んでくれた。

「1枚買って当たるお客さん、初めてですよ。モッテますね」。

お姉さんはそう言って200円をくれた。


200円を手に、私は困ってしまった。

確かに当たった。

当たったのだが、200円が戻ってきただけだ。

これでは意味がない。

やはり私は元の道に戻り、当たった200円でコンビニの珈琲を買いながら、岬へ向かうことにした。

すぐにコンビニが見つかり、店内へ。

しかし、珈琲マシーンには『調整中』と紙が貼られていた。

ため息がこぼれた。

ついてないにもほどがある。

しかし、ついてないことは、これだけではすまなかった。

仕方がないので岬への道をはずれたコンビニへ行くことにしたのだが、そのコンビニでも珈琲マシーンには『洗浄中』と紙が貼られていたのだ。

「最悪だ・・・」、思わず口に出してしまい、。

レジにいた男の子に「申し訳ありません」と言わせてしまった。

慌てて、先ほど行ったコンビニが調整中でここにきた為だと言い訳してしまった。

すると「あ、いれたての珈琲はありませんが、ファ○チキがあげたてです!いかがですか?」と言われた。

思わず笑ってしまい、私はファ○チキを買うことにした。

ファ○チキを片手に岬へと向かう。

しかし、道をはずれすぎたせいで私はあろうことか道に迷ってしまった。

周りは畑だらけでますますわからない。

そうこうしているうちに、おしっこがしたくなってきてしまった。

元の道を戻ろうとしたが、どうやって来たのかもわからない。

すると、遠くの畑にポツンと作業をしている人と建物らしきものが見えた。

私は早足でそこへ向かい、トイレをかりることにした。

そこにはおばあちゃんと、セメントで周りを囲っただけの汲み取り式のトイレがあった。

トイレを貸してもらえないかと頼むと、おばあちゃんは快く貸してくれ、お茶とお菓子までくれた

おばあちゃんに岬への道順を聞き、なんとか岬の入り口にたどり着くことができた。

『あぁ、今度こそ死ぬんだなぁ・・・』と思った。

一歩、いっぽ踏みしめながら歩いていると、私をバスが追い抜いて行った。

『こんなところもバスは通るのだな』と思った

岬へ着くと、そこには先ほどのバスが停まっており、多くの観光客で賑わっていた。

弟からは心霊スポットで自殺の名所だと聞いていた。

しかし、そこは観光スポットでもあったのだ

棒立ちしていた私に、観光客のおばちゃんが声をかけてきた。

「ごめんね、シャッター押してもらっちゃってもいいかしら?」

「あ、はい、大丈夫ですよ」

と答えてしまった。

すると、私も!私も!と次々に携帯やカメラを渡された。

おばちゃんらの勢いはすごい。

岬のあちこちで私を見かけては、多くのおばちゃんが「さっきはありがとうね」など、声をかけてきてくれた。

あまりにも人が多く、飛び込むことが難しいと思った私は、人気がないところを探すために奥へと歩いた

そして、やっと見つけた。

高くて、静かで、ここなら完璧だ。

そう思い近くのベンチに立ち上がり、高さを確認する

その時、後ろから「Hi!」と声をかけられた。

そこには、白人の老夫婦がいた。

カメラを差出し、写してほしそうなジェスチャーをした。

私は趣味で英語を勉強していたので、英語を話せるか聞いてみた。

すると彼は「もちろん、アメリカ人だからね」と笑った。

写真をうつしカメラを渡すと、彼は私がベンチに立ち上がったので、飛び降りるんじゃないかとひやひやしたと言った

その言葉で、なぜか涙がこみ上げた。

我慢し、笑ってごまかそうとすると、奥さんが私を抱きしめた。

「OK, It's OK」

そう言い、彼女は私の背中をさすった。

もうとまらなかった。

『人生で、こんなに泣いたのは初めてじゃないか』ってくらい。

人目もはばからず、泣きじゃくった。

その間も、彼女は私をしっかりと抱きしめ、

「OK, It's OK」

と言いながら私の背中をさすってくれていた。

しばらくたって落ち着いた私は、深くお礼を言った。

彼女は、「子どもを産みなさい」と言った。

「あなたが母親の人生を変えたように、子どもはあなたの人生を変える」と。

彼は

「歳をとればすべてが幸福に感じるようになるから、とにかく生きろ。辛くても、苦しくても、とにかく生きるべきだ」

と言った。

私は深くうなずき、彼とハグをした。

彼らは家まで送ると言ってくれたが、私は自分で帰ることにした。

奥さんは鞄の中をがさごそとあさりだした。

連絡先を渡されるのかと少し心配したが、取り出したのはキャンディとスティック珈琲だった。

「このキャンディを舐めながら家に帰りなさい。そして、この珈琲を飲んで休みなさい」と言い、彼女は、もう一度抱きしめてくれた


スティック珈琲を見て、また涙がでてきた。

コンビニをはしごしても飲めなかった珈琲。

生きていたから珈琲が飲めるんだと思ったら、なぜかわからないけれど、笑いがこみあげてきた。

彼らは笑う私を見て驚いたが、私につられて笑いだし、三人でハグをした

その日は家に帰り、母親とぎくしゃくしながらご飯を食べた。

そして今日、まだぎくしゃくしているが、生きていればどうにかなると思う。

持病もお金も結婚も、何一つ解決していない。

けれど、私はそれでも良いと思った

彼らが言ったように、とにかく生きて子どもを産もうと思う。

付き合っている彼と結婚するかは、まだ答えが出ないけれど、

私はクズで人生は不安だらけだけれど、

また、それも私の人生だと思い生きてみる。

今回のことで、私は自分自身をラッキーだと思うようになった。

それだけで生きていけそうな気がする。

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