あのね、俺が間違ってた【育児って難しい】

あのね、俺が間違ってた【育児って難しい】

この前妻に先立たれたんですよ、この前と言っても随分前だけどね。

で、生まれて初めて一人で乳児を育て始めたわけですわ。

正直、最初は乳児を育てるのって簡単だと思ってたのよ。

みんな普通に育児してるからさ。

あのね、俺が間違ってた。

あれは男一人でやるもんじゃない。

女性だね、お母さんが愛情込めてやるものだよ。

最初に寝かせつける時さ、めちゃめちゃびびってお腹そろ~ってさすって頭そろ~っと撫でたのよ。

10秒くらいかけてさ。でなんか怖くなって手を止めちゃったのさ。

そしたら娘がさ「もっと撫でて!」って感じでぐずるの。

同じ過ちは2度繰り返さないのが俺よ。

だからお腹トントンしたのさ。

えぇ、そりゃもうトントンしましたとも。全てを忘れてトントンしたよ。

『ちょっと強すぎるんじゃないか』

とか

『実はそろそろミルクやる時間だ』

とか

『オムツも確かめないといけない事』

とか色々忘れてね。

だって娘が撫でろって言ったからね。

そしたらエライ事になった。

もうすごい号泣。

すごい喧しさ。

耳元でシンバル鳴らされたくらい。

空港の隣に住んでる人でもきっと驚く。

それで横見たら、娘がすごい勢いで俺の事見てんの。

ホントごめんなさい。

正直

「男なら女房の忘れ形見くらい一人で育てるぜ!」

なんて見栄張らないで、素直に娘と一緒に妻の後を追えばよかったと思ったよ。

心の底から一人で育てると決めた事を後悔して、今後の事を不安に思ったね。

でも会社行って同僚に

「赤ん坊の世話なんて簡単だな!専業主婦なんてただの暇人だよ。」

とか言っちゃってんの。

ホント俺ってダメ人間。

誰か助けて下さい。


この前、娘の尻に赤い染み見つけたんですよ、初めてね。

で、生まれて初めて娘の初潮に気付いたわけですわ。

正直、最初はそんなの簡単だと思ってたのよ。

みんな普通に気付いてるからさ。

あのね、俺が間違ってた。

あれは男親が処理するもんじゃない。

女性だね、母親でなくてもいいからとにかく女性がやるものだよ。

最初に娘に知らせる時さ、めちゃめちゃ怯んで娘の肩そろ~って叩いて「あのさ」って静かに囁いたのよ。

10秒くらいかけてさ。

でなんか言いにくくなって下向いちゃったのさ。

そしたら娘が俺の視線に気付いてさ

「もっと早く言ってよ!」

とか怒るの。

同じ過ちは2度繰り返さないのが俺よ。

だから謝って、生理用品買いに行ったのさ。

えぇ、そりゃもう買いましたとも。

全てを忘れて買ったよ。

『俺は結構ごつい外見してる事』

とか

『レジのお姉さんが結構若くて綺麗な事』

とか

『夜用と昼用がある事』

とか色々忘れてね。

だって、娘が家で恥ずかしがりながら俺を待ってたからね。

そしたらエライ事になった。

もうすごい血まみれのゴミ箱。

すごい血まみれ。

俺の方が貧血になるくらい。

赤ん坊一人の血の量くらいあるかもしれなかった。

それで横見たら、娘がすごい勢いで俺の事睨んでるの。

ホント頼むから紙に包んで捨てなさい。

正直

「男ならなんでも対応できるぜ!」

なんて見栄張らないで、素直に職場の若い子とかに聞いておけばよかったと思ったよ。

心の底から一人でパニクった事を後悔したね。

でも会社出て友達に話した時に

「娘もこれで一人前だな!欲情すんなよ」

とか言われて、顔で笑って腹で密かにむかついてんの。

ホント俺ってダメ人間。

これから思春期迎える娘、俺一人で平気なのかなぁ。


この前娘が大学受けたんですよ、初めてね。

で、生まれて初めて娘の合格発表を迎えたわけですわ。

正直、最初は合格発表見に行った娘の電話待つのなんて簡単だと思ってたのよ。

みんな普通に待ってるからさ。

あのね、俺が間違ってた。

あれは普通の親が待つもんじゃない。

裏口入学者の親だね、合格確実な親だけが安心して待てるものだよ。

最初に受話器上げる時さ、めちゃめちゃびびって受話器そろ~って握ってそのままそろ~っと耳に当てたのよ。

10秒くらいかけてさ。

で、なんか怖くなって戻そうとしちゃったのさ。

そしたら電話の向こうで娘がさ

「ちょっとお父さん聞いて!」

とか言ってんの。

同じ過ちは2度繰り返さないのが俺よ。

だから「どうだった?」って聞いたのさ。

えぇ、そりゃもう聞きましたとも。

全てを忘れて聞いたよ。

『高1の時から決めてた第一志望だ』

とか

『強気な娘は滑り止め受けてない』

とか…

『受かってたら、彼女は一人暮らしを始めると決まってる事』

とか色々忘れてね。

だって娘が聞けって言ったからね。

そしたらエライ事になった。

もうすごい合格。

すごい「サクラサク」。

満開過ぎて涙出てくるくらい。

遠山の金さんなら、肌色が見えなくなってる。

それで横見たら、鏡の中の俺がすごい勢いで涙こらえてんの。

ホントごめんなさい。

正直

「いい父親なら、娘との距離は適度にとるべきだぜ!」

なんて見栄張らないで、素直にもっともっといろんな話をしときゃよかったと思ったよ。

心の底から娘との会話が減っていた日頃の自分を恨んだね。

でも、妻の実家言って義理の両親に

「これで一段落ですよ!これからは少しは一人の人生楽しもうかな。」

とか言っちゃってんの。

ホント俺ってダメ人間。

娘よ、たまには帰ってきて下さい。


この前、娘の結婚式に出たんですよ、初めてね。

で、生まれて初めて、娘と腕を組んでバージンロードを歩いたわけですわ。

正直、最初はバージンロード歩くのなんて簡単だと思ってたのよ。

みんな普通に歩いてるからさ。

あのね、俺が間違ってた。

あれは父親が歩くとこじゃない。

新郎だね、どうせ連れてっちゃうなら最初から新郎が腕組んで歩けばいいんだよ。

最初に歩き始める時さ、めちゃめちゃびびって右足そろ~って踏み出して左足そろ~っと揃えたのよ。

10秒くらいかけてさ。

でなんか不安になって、娘の方見たのさ。

そしたら娘がさ

「お父さんしっかりして!ロボットみたいだよ」

とか言うの。

同じ過ちは2度繰り返さないのが俺よ。

だから、堂々と歩いたのさ。

えぇ、そりゃもう歩きましたとも。

全てを忘れて歩いたよ。

『娘のドレス姿が眩しすぎる』

とか

『今からでも回り右してやりたい』

とか

『時折、励ますように娘が組んでる手に力を入れてくる』

とか色々忘れてね。

だって、娘がしっかりしろって言ったからね。

そんで、新郎のとこに辿り着いたらエライ事になった。

もうすごいキス。

すごい突然、頬にキス。

しかも

「私からの最後っ屁じゃ!」

って囁きながら。

何だよ、それ。

俺を泣かせたいのか、笑わせたいのか、泣いてやるよ。

それで横見たら、新郎がすごい神妙な顔で俺の事見てんの。

ホント幸せにしないとぶっ殺す。

正直

「男なら余裕持って娘を送り出すぜ!」

なんて見栄張らないで、素直に新郎を10発くらいぶん殴りゃよかったと思ったよ。

心の底から笑顔で送り出した事を後悔したね。

でも、式場出て娘に

「お前の世話も大変だったよ!これからしばらくはお母さんとの思い出に浸るぜ。」

とか言っちゃってんの。

「お母さん」でいてくれた時間が短すぎて、名前で呼んだ事の方が多かったな、翠。

僕はいつも君と一緒にあの子を育ててきたつもりだ。

もう何年かしたら、胸を張って君に会いに行きます。

そしたら、誉めて下さい。

おわり

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